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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)312号 判決 1968年10月29日

上告人

増田裕治

代理人

加納制一

被上告人

亡柏原一郎訴訟承継人

柏原八重子

ほか三名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人加納制一の上告理由第一について。

原審の確定するところによれば、上告人は訴外兵庫県食糧営団に対し本件土地を含む宅地一一五坪五勺を賃借し、訴外営団は本件土地上に本件建物を建築所有し、右建物所有権はその敷地である本件土地の賃借権とともに原判示の経緯を経て訴外亡日坂一雄に移転したところ、亡一雄は、被上告人に対し、本件建物のうち原判示(ろ)部分を期間の定めなく賃貸し、これを被上告人に引き渡したが、その後において、亡一雄は上告人に対し本件建物所有権移転に伴う本件土地賃借権譲渡について承諾のないことを理由に借地法一〇条に基づき本件建物につき買取請求をしたというのである。右の事実によれば、亡一雄の右買取請求権行使により、本件建物所有権は本件土地賃貸人である上告人に移転するが、右の所有権移転に先だち、被上告人は本件建物の前所有者である亡一雄から本件建物(ろ)部分を賃借しその引渡を受けているのであるから、被上告人は借家法一条一項により右建物部分の賃借権を新所有者である上告人に対し主張しうると解するのが相当である。右の点に関する原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法は存しないから、所論は採用することができない。

同第二について。

所論の点に関する原審の認定は、これを是認することができる。そして、記録によれば、被上告人は原審において上告人の所論主張を争つているものと認めるのが相当であるから、所論を採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(飯村義美 田中二郎 下村三郎 松本正雄)

上告代理人加納制一の上告理由

第一、本件の争点は、買取請求権行使と借家法第一条第一項の対抗力との関係をどう解釈するかにある。

この点について、第一審判決理由は、

「日坂一雄は本件土地について使用権限を有していなかつたのであるから、被告等(被上告人を含む)は無権限の亡日坂一雄からその所有建物の一部を借り受けてこれを占有し、ひいては本件土地をも占有しているものと云わなければならない。若し被告等が正当な本件土地の賃借人からその所有の建物を賃借していたとすれば、全く被告等主張のとおり、買取請求権の行使によつて地主に建物の所有権が移転した場合は、従前の建物賃借権を以て建物買取人たる地主に対抗できるのであるが、右のとおり亡日坂一雄が建物賃貸人である以上、原告には賃借権を対抗することはできない。」

として、被上告人賃借権の対抗力を認めず、上告人の勝訴を言渡した。

原判決理由は被上告人は上告人に対し、その賃借権を対抗することができるものと解し、上告人の之れに反する主張、ひいては第一審判決理由を、独自の見解であるとして排斥している。

然しながら、原判決は借地法第一〇条及び借家法第一条第一項の解釈を誤っているものと思料する。

即ち、既に上告人が原審第一準備書面第四項において陳述している通り、原判決は買取請求権の行使による売買と一般の売買との効果を機械的、無反省に同一視し、借家法第一条の適用範囲外の事態に、同条を適用するの誤りをおかしているのである。

例えば、建物の賃貸が第三者に対抗できる権原なしになされたとき、即ち第三者の差押登記又は抵当権設定登記の後に建物が賃貸されたときは、賃借人に建物が引渡された後に競売により建物所有権を取得したものでも、賃借人に対し建物明渡を請求できるのであつて、この場合借家法第一条の適用はない。

(最高裁判所、昭和三〇年十一月二五日言渡、民集九巻一二号一八六三頁「差押」

大審院、昭和一四年九月二八日言渡、民集一八巻一一三頁「抵当権」)

そもそも、借地法第一〇条は、敷地賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡又は転貸をうけた建物取得者が、敷地使用権を敷地賃貸人に対抗できないとの前提の下に、単に建物取得者は建物収去、敷地明渡の請求に応じる代りに、建物代金と引換えに建物を明渡すればよろしいようにしただけである。

建物取得者が自ら建物を占有する場合にはそうであるのに、彼が建物を賃貸し賃借人に引渡した後に敷地賃貸人から建物収去土地明渡を請求され、買取請求権を行使した場合には、借家法第一条の適用により、敷地賃貸人に対し建物賃借人が建物取得者より強い地位に立つと解釈するのは明かに誤りである。

(民商法雑誌第四九巻第六号三宅正男教授判例批評における論旨を援用)

尚、法律時報第三六巻第一号八三頁、民事判例研究「一一四建物買取請求権(借地法一〇条)と建物賃借人による代位行使、石外克喜助教授」においても、多少ニュアンスの相違はあるが、同一の論旨である。

之を要するに、買取請求権行使による売買と一般の売買とは同一でないから、本件の場合借家法第一条を適用すべきでないと思料する。

上告人が茲に原審第一準備書面の論旨を重ねて展開したのは原判決が上告人の前記主張について独自の見解であると簡単に排斥されたことに全く不服であるからである。

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